長いから飛ばしてくれてええです

夢を見た。

僕はある部屋に住んでいた。
実際に住んでいる部屋とは違う。

白い壁、ダイニングには少し大きめのテーブルがあった。
床はフローリング。

その部屋で目を覚ませば
いつもより部屋数が増えて大きくなっていたように感じた。

人の気配がするリビングに行くと食べ終えたお弁当がふたつ。
そして、まだ手をつけていない弁当がひとつ。

不思議に思って庭に目をやると、男の子と女の子が庭で日向ぼっこをしている。
見たことあるような、ないような不思議なふたりだった。

女の子は振り返って
「お弁当食べた?」って。
「ううん」と僕が首を振ると
「寝てるのを起こすのも悪いから先に食べちゃったよ。」
僕は「うん、大丈夫。」と言って二人を眺めてた。
すると「今日から住むことになってるからよろしくね。」と言って少し笑った。

ああ、そうか二人は今日からこの家に住むんだ、と気付いた。
僕はパニックになった。
ええ、そんな約束したかな?いつやったっけ?心の準備できてないしな、どうしよ。
そんなことを思いながら自分の家をフラフラと彷徨った。
まあ、でもそんなことでうろたえても仕方ないからダイニングに二人を呼んだ。
「みんなで住むには簡単な決め事をしておく方が良いと思うんだ。」と僕が言うと
女の子は「決め事苦手なんだけど」と言い、男の子は笑いながら静かに話を聞いた。
結局最低限の当たり前な決め事をした後、僕はなんだか新生活が楽しみになってきた。
今晩は歓迎飲み会だなあとか、みんな予定大丈夫かな?なんて。


そのマンションなのかアパートなのか一軒家なのか解らない建物には
お店も併設されているみたいだった。
僕がそこの店員さんに「今日から同居人が増えたんだ」というと
店員さんは今日でお店を辞めるという。
自己都合では無さそうで少し悲しそうな顔をしていた。
僕は自分の浮かれ具合に嫌気がさして自分が腹立たしくなった。

僕は自分に腹を立て、何故か大きな岩の壁を修行のように登り続けた。








そんな夢だった。
日常のような非日常。
結局目が覚めた僕が思ったのは少し悲しい夢だけど
懐かしくて柔らかい気持ちになったなあって。

それにはきっと理由がある。

今回出てきた部屋のつくり。
白い壁、大きめのダイニングテーブル、今思い出せばソファもあった。
この風景は初めてニューヨークに遊びに行った時、泊めてもらった部屋みたいだ。


初めての一人旅、初めての海外で不安だった。
そこの住所だけが頼りだった。
住んでいるのは後輩の友達。T君という。僕は話した事も会ったこともない。
出発前に二、三回メールを送っただけだ。
それでも旅行初日にニューヨークを案内してくれるという。
とてもフレンドリーにしてくれて僕は嬉しかった。


ニューヨークに着いた僕はその住所を探し始めた。
クイーンズという土地だ。
タクシーに揺られ、土地勘の無いアメリカ人では無い運転手さんと喧嘩しながら
その住所を目指した。
土地勘のない運転手さんは人気の無いほうへ車を進めた。
僕の不安は加速して、何度もカタコトの英語で「いつ着くんだ?」と語りかける。
運転手さんはイライラしながら「住所が見つからない」と訛った英語で
吐き捨てるように僕に言葉を投げた。

そうしてついに友人宅についたわけだが、ドアの前に鉄格子があって
呼び鈴さえも鳴らせない。

困った僕は公衆電話を探して彷徨う。
夏のニューヨーク。日本よりも少し湿気があった。
とにかくその日は暑かった。
やっとのことで電話をみつけた。

今度は硬貨がない。
紙幣しかない。
くずさなきゃ。

突然やってきた買い物タイム。
うまく買えるだろうかという心配をよそにすんなりジュースを買えた。
そのお釣で電話をかけてついにコンタクト成功。
玄関まで出て待っていてくれるという。

舞い上がった僕は買ったジュースを公衆電話に忘れてきた。
走って取りに戻ると、僕があけるはずだったジュースをあけて美味しそうに飲む
黒人の青年がいた。
うわー、と思いながら疲れていた僕は「まあ、いいや」と
友人宅に向かった。

玄関で向かえてくれたのは後輩の友人ではなくD君という同居人だ。
四人でシェアしていると言っていた。

あたたかく迎えてもらった上に、シャワーまで借りてしまった。
シャワーからあがると、
D君は「ご飯食べた?マンハッタンでも行く?」と僕を誘ってくれた。

D君に連れられて地元の駅へ。
そこから見たエンパイアステートビルはまさにニューヨークだった。


初めての街をたくさん歩いて、T君とも途中で落ち合えた。
二人に連れられ、そろそろ今日のホテルを探したいとお願いすると二人が
「祐介君さえよければずっとうちに泊まっていけばいーじゃん」と言ってくれた。
嬉しすぎて僕は未だにはっきりとその言葉を覚えているんだ。
話したことも会ったことも無い人間を十日間もみんなの家に泊めてくれるなんて
夢みたいだって。

夜は歓迎会。
たくさんお酒を飲んでみんなで踊った。
十日間はまるで一年のような、一日のような。
そんな夢の日々でした。

最後の日僕は「ありがとう」と「また絶対来るから」と言った。
みんなは「また帰ってきてよ」と。


そして一年半後、
僕は真冬のニューヨークで「ただいま」と言い、
みんなは僕に「おかえり」と言ってくれた。



おはよう、おやすみ、ごめん、ありがとう、ただいま、おかえり。
そんな日常にあふれている言葉。

きっとあふれていると勘違いしているだけだ。

言葉は気持ちをのせてはじめて相手に届くんだ。


おはよう、おやすみ、ごめん、ありがとう、ただいま、おかえり。

今日からはもっと気持ちを込めて生きていこうと思った。



8年も前の話だ。
T君は今もニューヨークで暮らしている。
ニューヨークの学生連合の会長を経て
今は大企業で会計をしている。
たまに日本に帰ってきては僕を訪ねてくれる。
ブランクはない。
いつでもあの日のように語りかけてくれる。




長くなったけど僕は家族とか仲間とかそういったカタチに強い憧れを持っているようだ。



一年間過ごした学校生活は僕にとってホームであり、
みんなは家族だった。
かけがえの無いとはまさにこのことだろう。


まともに言えなかったけど改めてみんな、ありがとう。
勝手にずっと家族のように思ってるよ。